キオクノカケラ
結城くんに連れられてリビングに行くと、机の上に美味しそうな和食が並んでいた。


「うわあ!美味しそう★」


思わず感激の言葉を漏らす私に、キッチンから出てきた章さんはニコっと微笑んだ。


「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」


「はい!もうバッチリ!!ベッドも人生の中で1番ふかふかでサイコーでした♪」


満面の笑みで答える私に、結城くんと章さんは珍しく眼を丸くした。

私、そんなに驚くようなこと言った?


「人生で1番、ふかふか…ですか?」


「?はいっ♪」


「…詩織、今まで布団で寝てたのかい?」


「ううん、ベッドだったけど…ゴツゴツしてて堅かったの」


当たり前のように言葉を返すと、二人は顔を見合わせた。

そして、両方共不敵な笑みを浮かべる。


「へぇ……あいつら、一回シメに行ったほうがいいかもね」


「ふふ…珍しく同意見ですよ」


……………。

今、なんか物騒なこと言ってなかった?


二人共、笑顔が怖いよ……。


お願いだから法に外れたことはしないでね?



「さ、朝食をとりましょうか。冷めないうちに、どうぞ」


私の心配そうな顔に気づいたのか、

章さんは私を見ると、そう切り出した。


「ああ、そうだね」


「そうしましょう!!」


私と結城くんが答えると、章さんはニコニコしながらサラダを持ってきた。



私の前に置かれた、

私が作ったんじゃない

私の朝食。


なんだか、無性に懐かしい気持ちが込み上げてくる。



記憶を失ってからの3ヶ月間、毎日作る側だった私は

美味しそうな食事をみて、感激の言葉を漏らすことを


忘れてしまっていたみたい。

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