キオクノカケラ
章だって電話の相手が誰かくらい分かってるだろう…


にも関わらず、電話を出るように薦めるのは

オレへの嫌がらせみたいなものだろう。

ちっと軽く舌打ちをして、携帯のディスプレイを見る。


…ああ、やっぱりな

予想通り。

そこには、“望月恵”と表示されていた。


「あっ!恵!!」


隣から携帯を覗く詩織が、歓喜の声を上げた。


「出ないの?」


そして画面とにらみ合ったまま、

一向に電話に出ようとしないオレの顔を覗きこむ。


「結城くん?」


「頭領」


不思議そうにオレをとらえる瞳と

黒いオーラ全開の章の笑み。


そんなふたりを目線だけで交互にみやると

仕方なく電話に出た。


「はい…」


『あ!結城くん!!出るの遅いよ!何回電話したと思って…』


「それは悪かったね。けどオレも暇じゃないんでね」


恵の言葉を遮って、いちいち電話するなと遠回しに伝える。


『忙しい?仕事中だった?』


冷めた口調で言ったはずなのに、そんなこと全然気にしない様子の恵。

どうやら恵にオレの真意は伝わらなかったらしい。


「はあ……」


盛大なため息をついて、さっさと用件を聞き出す。


「何の用だい?」


『え…ああ!
昨日、詩織ちゃんと話すのはまた明日にしよう。って言ってたのに、家に来てみれば誰もいないんだもん!!』


そういうことか…

恵の言い分は分かったけど

そんな話、オレは聞いてないぜ?

きっと章を睨むと


「どうしました?」


なんて言って笑みを深くする。


「…別に?」


それに負けじと、オレも笑みを浮かべる。



ホント、いい性格してるぜ。



表面上ではニコニコしてるが、何考えてるか分かったためしがない。

章と笑顔の睨み合いをしていると、

ふと、目の端に焦ったようにオレと章の顔を見比べる詩織が映った。



……前だったら絶対に拝めないような顔だな。


< 45 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop