キオクノカケラ
さっきまでの不安そうな表情が嘘だったかのように笑う詩織。

そんな詩織を見て、思わず笑みがこぼれる。



詩織が笑うとオレも嬉しくなる。


詩織が哀しい表情をすると胸が切なくなる。


こんな風に思うのはお前が初めてだよ。



ふと、章がオレを見ているのに気がついた。

…何だ?

眉をひそめて首を傾げると、

章は視線を詩織に戻した。

ふいに詩織がこちらを向く。


「あ、結城くん!」


オレに気づくと手を上げて、にこやかに微笑んだ。

それにつられてオレも笑顔になる。


「待たせたね。行こうか」


「……うん!」




**********************

♪♪~

突然、聞き慣れた音が車内に鳴り響いた。


「この音…結城くんだよね?」


詩織はそう言いながらオレの胸ポケットを指差した。

そう、間違いなくこの音はオレの携帯から流れている。


「ああ…そうだね」


オレは軽く返事をして、詩織の視線から逃れるように

車窓から景色を眺める。


「出ないの?」


不思議そうに首を傾げて、まだオレを見つめているのが気配で分かる。

それでもオレは、視線を戻さないまま答える。


「ほっとけば鳴りやむよ」


「でも…大事な用かもしれないよ?」


横目で見てみれば

詩織は少し俯いて控えめに言った。

そして「ほら、昨日の会議とかさ!」と両手を打ってひらめいたような顔で笑う。


確かに、仕事の話しだったら出るけどね

でも、今のは確実に仕事ではないだろう。

時計を見れば、14時24分

こんな時間に電話をかけてくるのは

…あいつらしかいない。


大丈夫だよ、と口を開きかけると


「確かに仕事かもしれませんね。頭領、僕たちに構わず出てはいかがです?」


という言葉でオレの言葉が消された。

すぐ側で、オレと詩織と対峙するように座る

声の主を睨むと、悪戯っぽく笑っていた。


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