キオクノカケラ
「あれは頭領にも責任があったじゃないですか」


「そもそも過去の話を持ち出さないでもらいたいですね」


「過去に問題を起こすからだろ。
だいたいな……」
「ストップストップ!!続きは家でしてくださいっ!」


ああいえばこういう、

そして笑いながらも火花がバチバチと絶えないふたりの間に、

割って入って釘をさす。


ふたりをなんとかなだめて、車から出すと

丁度、叔母さんが家から出てきた。


なんて悪いタイミング……。


私が固まっていると、章さんの手が肩に置かれた。


「あれが、君の叔母さんですか?」


「はい…」


「ふぅん…あれが。詩織とは似てないようだけど」


章さんの言葉に頷くと、結城くんは手を口元にあてて

見極めるような鋭い瞳を彼女に向けた。

彼女も私たちに気づいたようで、一瞬目を見開いてからこちらに近づいてくる。

いつもよりも険しい表情で。


手に力が入って、足が震える。

今すぐにここから逃げ出したい衝動を抑え込んで顔を上げれば、

今まで見た中で一番怖い顔の叔母さんと目が合った。


「……!!」


「あんた、買い物放ってどこ行ってたのよ!」


彼女は、今にも飛びかかりそうな勢いで私に罵声を浴びせる。

そして、まさに鬼の形相で私に詰め寄ってくる。

それに平行して私も後ろに下がる。


彼女の瞳は怒りで震え、右手が持ち上がった。

…叩かれる!!

そう確信した私は、これからくるであろう衝撃に備えて

唇を噛みしめ、ぎゅっと目を瞑った。



けどいつまでたっても衝撃がこない。


あれ……?


そっと目を開けてみると、

叔母さんの驚いた横顔が目についた。

上げられた手は誰かの手で掴まれていて、

その誰かの手を辿ってみると。


「結城くん……」


「オレの大切な人に手を出そうなんて、いい度胸してますね。秋さん?」


ニコニコしてて、ちゃんと敬語なのに怖く感じるのは、

目が笑ってなくて、後ろから黒いものが見えるからだろう。

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