キオクノカケラ
周りを見渡せば、さっきまで見えなかった炎の姿が目に映った。


ドアからだんだん火のまわりが早くなっているようだ。


頭上で黒い煙も溜まってきている。


…そろそろ出ないとまずいな…



…でもどうやって出る?

唯一のドアは塞がってるし、窓もない。

何かあるはずだ。

何か……………。



思考を巡らせながら部屋を見渡すと、晴輝と目が合った。

もうすっかり泣き止んだその顔は

どこか冷めたように、冷静だった。


さっきみたいに泣かれるよりはましだ。

けど、その余りの冷静さがひっかかった。




まるで、こうなることを知っていたような………


…いや。


“こうなるように仕組んだ。”

と言ったほうが当てはまるだろう。


「随分冷静だね。何かここから出れる策でもあるのかい?」

オレは晴輝にニヤリと笑うと、組んでいた腕を外し、腰に手を当てた。

晴輝はそんなオレを訝しげに見ると、ぷいっ、と顔を背けた。


「……別に」


ったく…随分と強情なガキだね。

オレは、そっぽを向いている晴輝の顎を軽く掴むと、こちらに向けさせた。


「…それじゃあ、言い方を変えようか。」


「お前は、どこから逃げるつもり?」


一瞬、晴輝の瞳が揺らいだ。


けど、瞬きをする間にさっきの顔に戻っていた。



…なかなかやるね。

一瞬のうちに表情を変えられるなんてさ。

まだ5才のくせに。


心中で口笛を鳴らすと、掴んでいる顎をくい、と持ち上げる。

そしてもう一度聞く。


「さあ、言ってごらん?どこから逃げるのか」


「べ…別に、逃げよう、なんて思って…………あっ!!」


あからさまに焦りながら、逸らしていた目をオレに向けた途端。

晴輝の瞳が、焦りの色から驚愕の色に変わった。


けどその瞳が捕らえているのはオレじゃなくて、

オレの後ろで少し上。


つまり天井を見ているようだった。



何かと思って後ろを振り返ると、

天井の一部が崩れかけて、今にもバランスを崩しそうだった。


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