キオクノカケラ
そろそろ天井も脆くなってきてるな。

いつ落ちてきてもおかしくない。


天井の下敷きになって死ぬなんて、まっぴらごめんだね。

そう心に決めると、少しでも被害を受けないよう、

その場から移動させる。



…………が。

晴輝はちっとも動く気配がない。

ただ天井を見つめて、立ち尽くすばかり。


「おい晴輝。もう少しそっちに…」


不振に思いながらも、肩を掴んで軽く揺さぶると、

オレの手を振り払って天井の真下へ走って行った。


「お、おい?!」


晴輝が崩しそうな天井の真下にたどり着いた瞬間。


バキバキッ


木が折れたときのような不吉な音が響いた。

上を見上げれば案の定、天井が落ちかけている。


「晴輝!!」


オレが晴輝の名前を叫んだのと

天井が落ちるのは

同時だった。


オレは晴輝の腕を強く掴むと、自分の元に引き寄せる。

そして地面を思いっきり蹴って、晴輝を庇うように背中で着地した。


天井が完全に崩れ落ちたのも、オレが着地したのとほぼ同時だった。


「っ……!」


ズキンと背中に走る衝撃。



肩も何か固いものに当たったようで、ズキズキと脈打っている。


「大……丈夫?」


オレが苦痛に顔を歪めると、心配そうに晴輝が覗き込んできた。


そんな晴輝を安心させるように、頭をポンポンと叩いて苦笑する。


「これくらい平気だよ。心配するなって」


な?と微笑めば、素直に「うん…」と頷いた。


そして晴輝は目線を逸らして、少し俯いたあと

ついさっき落ちた天井のほうを見た。


思わずオレも目線を辿る。

その先には、落ちた天井がメラメラと燃えて、火の勢いが増していた。


「…早めに出たほうが良さそうだね」


「…………無理だよ」


少し間をあけて呟かれた言葉は

低く掠れて、くぐもっていた。


「………どういうことだい?」


眉間に皺を寄せて尋ねると。

ポツリポツリと話始めた。


「もう…出口がないから。出られないんだよ……」


「出口がない?」


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