キオクノカケラ
「うん…。今ちょうど天井が落ちたところに、抜け穴があって…」


「“そこから逃げる気だった”ってことか」


「…………」


ため息混じりに口を挟むと、また黙り込んでしまった。


はあ…

つい大きなため息が零れる。



出口がない…か。


まあ。
だからってオレは諦めたりしないけどね?

どんな手を使ってでも出てみせるよ?









……詩織を迎えにいくために……








とりあえず、抜け穴があるらしい、天井が降ってきたところを睨むように見つめる。


…天井を退かす、のは無理だな。

結構な量がありそうだし、火がまとわりついてる。


…他の出口を探す、のも無理だな。

ドアも窓もないのに他に出口があるなんてのは考えにくい。

「ちっ……」


小さく舌打ちをして、部屋を隅々まで見渡す。


それでも出られそうなところはない。


ふと目の前の晴輝を見れば、涙目で膝を抱えていた。

なんだかんだ言ってもまだ5才…炎に恐怖を感じないわけがない。


オレをはめたことは許し難いけど…

…仕方ないね…


小さく息をついてから、落ち着くために何気なく天井を見上げる。

すると、ある物が目に入った。


自然と口元が緩む。


…出られるかもしれない。


オレは頭をフル回転させると、これからすることを整理した。

そして、晴輝に向き直す。


「晴輝。出られるかもしれないぜ?」


「え……」


オレの言葉に一瞬瞳を輝かせたが、すぐに消えてしまった。

そのまま俯くと、ポツリと呟いた。


「………無理だよ」


低く掠れて、弱々しい呟きは、すぐに空気に溶けた。

オレはそんな弱気な晴輝になるべく優しく微笑むと、頭をくしゃ、と撫でた。


「始めから“無理”だなんて感心しないね」


「…………」


「オレを信じなよ。後悔させないぜ?」


最後に片目を瞑って不敵に笑うと、オレのシャツをぎゅっと掴んで。


「分かっ、た」


そう小さく答えた。


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