キオクノカケラ
「さて、次は久々の生きた人形!!」


「“囚われの人形”です!!」


司会者がそう叫んで、右手を掲げると

ステージ脇からガラガラと宝箱の形をした、黄色い箱が運ばれてきた。


黄色は注目の色…。

つまり今日の目玉商品ってわけか。


中には恐らく詩織が入っているんだろう。

けど肝心の中が見えない。


くそ…っ

中が見えなきゃ意味ない。


「おい!!中身見せろよ!」


「そうだそうだ!見なきゃ分かんねーだろ!!」


……どうやら、そう思ったのはオレだけじゃないらしい。


様々な席から飛び交う野次を、

司会者は涼しい顔で眺めていた。

そして、面白そうに目を細めた。


「皆さん、静粛にお願い致します。では、お待ちかねの中のほうをご覧にいれましょう」


そう言って指を鳴らすと、天井から箱に水が降り注いだ。

すると徐々に色が落ちてきて、

箱の形がわからなくなった。


こんなことに客席からは歓声があがる。


なるほどね。

透明な箱に黄色のペンキを塗ったのか…。


そして今度はさっきよりも大きな歓声。

ステージを見つめると、フランス人形のような服をきた詩織が横たわっていた。


眠らされてる……みたいだな。

オレがほっと息をつくと、背後から嫌という程聞き覚えのある声が聞こえた。


「全く動きませんね。睡眠薬でしょうか?」


今度はため息をつきながら、ゆっくり振り向くと

案の定、黒いオーラ全開の章がいた。


一見ニコニコと笑っているように見えるが、目が笑ってない。

まあ、オレも人のこと言えないけど。


「それでは、3000万からです!」


さっきまで散々詩織の説明をしていた司会者が、やっと値段を挙げる。

それを聞いた客席からは次々と値段を張り上げていく。


「3500万!」


「3800万!!」


「5000万」


値段がどんどん増えていくのを黙って見ていると、

低い声が今までの値段を跳ね上げて呟いた。


その声の主を見ると。


「あれは…久光(ひさみ)グループの社長ですね」


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