キオクノカケラ
仕方なく抵抗を諦めると、ちゃくちゃくと薬を塗り始めた。

その度にピリピリと電撃が走る。


「痛っ……おい章、痛いんだけど」


「当たり前でしょう。火傷ですむものではないんですから。これは痕残りますよ」


「…………」


そして、何だかんだ言いながらも、大体の傷に処置を施した。


そこで最後に、一番ひどかった(らしい)右腕に包帯を巻こうとする章を、左手で制する。


「それ、巻かないでくれ」


「……頭領、詩織さんを心配させたくないのは分かりますが……――」


「分かるならいいだろ」


これだけは譲れない。そう瞳で訴えると、

章は溜め息をつきながらも渋々引き下がった。


巻かれないで済んだという安心の反面、

いつもより遥かに物分かりのいい章に、違和感を感じた。



…何か企んでるんじゃないか?



本気で思う。

けど、あえて口には出さなかった。


代わりに、ふと思ったことを呟いた。


「値段……聞かれるだろうな」


すると章は、救急箱を片付けながら目線を上げずに答えた。

「ええ。それに詩織さんのことです。値段を知ったら、絶対に返すと言ってくるでしょうね」


思った通りの答え。


章の言う通り、詩織の性格上、

なにがなんでも返すと言ってくるだろう。



まあ…だから聞かれる前に寝かしたってのもあるんだけど。


「――……聞かれるまで、絶対に言うなよ?」


とりあえずソファーから立ち上がって

章にそう念をおすと、オレは部屋に戻った。


部屋に入ると、すぐベッドに身を投げ出す。

そのまま頭の下で腕を組んで、これからどうするかを整理する。


明日は学校。

詩織も連れてくか。

ついでに恵たちとも話さなきゃいけないし。


オークションの奴等もどうにかしないとな。



そんなことを考えていると、

だんだん瞼が重くなってきて。

体から力が抜けていく。


そして視界が真っ暗になり、いつの間にか眠ってしまっていた。


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