キオクノカケラ
「痛っ…!章、てめぇ……」


「静かにしてください。詩織さんが起きてしまいますよ」


そう言いながら濡れたタオルを傷にあてがう。

それと同時に走る、鋭い痛みに思わず顔をしかめた。


「っ……!!だったら、もう少し丁寧にやってもらいたいね」


「おや、心外ですね。丁寧にやってるじゃないですか」


「どこが!!」


明らかに黒い笑みを浮かべた章を睨み付けると、また溜め息が零れた。


これで何回目だろう。


あの火に包まれた家から何とか脱出して、

詩織を取り戻した今。

とりあえず詩織を寝かして傷の手当てをしている。


それは良いとして……。

さっきから異常に力の籠ったこの手当ては何なんだ!!


「頭領が悪いんですよ?軍を束ねる長ともあろう君が、手当てもせずに突っ走るからです」


まさにオレの思考を読んだかのような答えに、オレは眉を潜めた。


「………お前。読心術でも手に入れたのか?」


あり得ないとは思うが、章ならできそうなので尋ねてみると


「何を言ってるんですか?この文明が発達した世の中で」


やれやれとあからさまに溜め息をつかれる始末。


「アンタって…つくづく嫌な奴だよな……」


「否定はしません」


「…………」


こいつとやり合っていたら埒があかない。

オレは本日数十回目の溜め息をつくと、

胡座をかいていた右膝に肘を乗せて、頬杖をついた。


すると突然、右腕に突き刺すような痛みを感じた。


「っ……!!?」


思わず顔を離すと、オレの異変に気付いた章が、不振そうに眉を寄せた。


「右腕が、どうかしたんですか?」


「いや…ちょっとな」


左手を挙げて軽く振り向くと、

ふいにぐいっと右腕を引かれた。


「いっ!!」


思わぬ行動に顔をしかめると、

腕を見た章の顔が険しいものに変わった。


「これはひどい……」


「っ…離せよ!たいしたことない」


ぐっと腕を引こうとはするものの、章は微動だにしない。


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