キオクノカケラ
詩織が下駄箱の陰に隠れたのを見届けてから、体も向ける。


「やっぱ結城か」


「何か用?」


「いや、用ってゆーか…神無月さん見なかった?」


「詩織?
さあ…見てないけど」


オレが口角を上げて、答えると。


「そ、そうか」


彼は一瞬息を詰まらせてから苦笑した。


「それだけかい?」


「あ、ああ。それだけ」


その答えを聞いてオレは詩織のいるべき方へと向きなおした。

そのまましゃがんで、顔だけ彼に向ける。


「もう用ないならさ、別のとこ行ってくんない?」


首を傾げながら怪訝そうに見つめる彼らに内心呆れつつ。

自分のワイシャツを引っ張って、ボタンが外れてることに気付かせ、一言。


「今、お楽しみ中なんだけど?」


すると途端に全員焦りだして。


「わ、悪ぃ!」


「マジかよ!!」


「後で話せよー!」


口々に詫びと、どうでもいい言葉を残して去って行った。

足音が充分遠ざかったのを確認してから、手を差しのべて詩織を立たせる。


「いきなり悪かったね。大丈夫かい?」


「う、うん……ありがとう」


「こちらこそ」


「へ?」


「ふふ、こっちの話」


不思議そうに首を捻る詩織に悪戯っぽく微笑むと。

オレにつられたのか少し強張った顔でニコ、と微笑んだ。


しばらくすると、また何人か走ってくる音がして。

慌てて詩織が陰に身を潜めた。


でもこの足音なら隠れる必要はないだろう。

これは、オレたちのよく知る奴らの足音。


「大丈夫だよ詩織、こいつらは」


そう言って不安そうな詩織を立たせたのと。

よく知る奴らが現れたのはほぼ同時だった。


「詩織ちゃんっ!!」


「め、恵!?」


こうして詩織の安全は確保できたものの。

締め忘れたために乱れた詩織の格好と。

シャツ全開であからさまにこれからですって雰囲気のオレ。


この後、恵からは怒られ、隼からはニヤニヤとされ、光一からは思いっきり睨まれる羽目になった。


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