キオクノカケラ
第7章
きれいに晴れた青空に、少し肌寒い風。

まさにもう秋ですって感じな日。

こんな日は、ゆっくり紅葉でも楽しむといいんだろうけど。

私は今、車の中で憂鬱な時間を過ごしていた。


「ねぇ、結城くん。ホントに行くの?」


何となく目を合わせづらくて、下を向いたまま尋ねると。



「ああ、もちろん。行ってちゃんと話をつけなくちゃならないからね」


少し不安な、控えめな私とは対称的に。

口の両端を上げて、きれいに微笑む結城くん。

そんな彼の笑顔に小さくため息をつきながら、車窓に視線をうつす。


踏切を渡って、交差点を右折して。

しばらくすると、嫌な思い出のある小さな公園が見える。

この公園を通りすぎたってことは。

…叔母さんの家まであと10分くらい。


できることならもう来たくなかった。

でも結城くんが、

「お前の叔母さんたちに言わなきゃならないことがあるんだ。
…明日中に、ね」

って真剣な顔をして言ってきたから。

私は頷くことしかできなかった。


でも…今日中に話さなきゃいけないことってなんだろう。

今まで、この車の中で数えきれないほど聞いたけど。

何回聞いてもはぐらかされちゃうし…。


昨日の夜中、章さんと結城くんが真剣な表情(カオ)で何か話してたのは知ってる。

二人とも、整った顔を難しそうに歪めて腕組んでた。


私のことなのに、私が知らないって…。

駄目だと思うんだけどな……。


そう考えながら、彼の綺麗な横顔をじっとみつめていると。

そんな私に気づいたようで、

こちらにゆっくりと振り向くと、優しく微笑んだ。


「…どうしたんだい?そんなにオレの顔をみつめてさ」


私が不安な時にいつも向けてくれる、結城くんの優しい優しい笑顔。

なぜかすごく安心できる。

私は静かに首を振ると、少し微笑みながら言った。


「なんでもないよ」


「……そっか」


……叔母さんの家まであともう少し。


< 89 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop