万年樹の旅人
六章

 ユナは、湿った土の匂いを間近で感じて目を覚ました。

 うっすらと開いた瞳にとびこんできたのは、金色の草。ハッと思わず身を起こし、改めて辺りを見渡す。ユナが横たわっていたのは、以前に一度だけ夢の中で見た金色に光る世界。晴れた日の春を思い出させる場所で、風もないのにふわふわと金色の粒子が一帯に漂っていた。まるで隣の家が菓子を焼いているかのような甘い香りが辺りに満ちている。地面に生える雑草も、見知らぬ金色の花も、やはり見覚えはないというのになぜか懐かしい、とユナはぼんやり思った。

 夏の日の畑と似た温かさをもつ地面に手をつけて、ユナはしっかりと立ち上がった。手についた土を払い落とし、空を仰ぐと甘い香りがいっそう強くなる。もしかしたら、匂いを放つものは、木の上のほうにあるのかもしれない、とそんなことを考えながら、ユナはゆっくりと歩き始めた。

 金色の森は、とにかく暖かい。

 それほど歩いていないはずなのに、外套の下が汗で濡れ始めているのがわかった。両腕をまくり、無造作に並ぶ木の幹につかまり辺りを確認しながら、ゆっくり慎重に進む。足の裏に触れる地面が柔らかく、少し油断してしまえば、足を取られてしまいそうだった。

(ここは、どこなんだろう……)

 どれだけ歩いても、いっこうに景色が変わらないことに不安を覚えるなか、それでも恐怖はこれっぽっちもなかった。自分が住んでいる場所とはかけ離れていて、しかも突然こんな場所に放り出されて。戸惑いはあるが恐ろしくはない。自分でも驚くほど落ち着いていた。

 もしかしたら、今こうしている瞬間も、夢の一部なのだろうか。
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