万年樹の旅人
――夢を見るほど、深い眠りについたのは初めてだ。
眠ればまた獣と対峙させられる夢を見るかもしれないという恐怖から、夜眠りにつくこと自体が怖かった。あの獣は一体なんだろう。自分と関係がある夢なのだろうか。布団に潜り込んで目を閉じても、夜一睡もできないことは珍しくなく、授業のない昼間に少しだけ目を閉じることもある。
その結果が今日の居眠りだ。
時間と共に薄くなりかけていた、胸を抉るような感情が再び鮮烈にユナの心を蝕む。
自分の何が悪くて、皆から陰口を叩かれるのかわからない。
――月の裏側にもうひとつ世界があると信じていてはいけないのだろうか。月を見上げて、淡い想いを望むことが、そんなに可笑しいのだろうか。歳のわりに、子供じみていると嘲笑を受けなければいけないことが、悲しく苦しかった。それは、月の裏側にはもうひとつ世界があるのだよ、と教えてくれたラムザ爺さんが嗤われているようで、怪我をすることよりも空腹を覚えることよりも、一番に痛かった。裕福ではないという理由なら、もっともっと痛い。
胸も目尻も熱を帯び、慌てて空を仰げば透き通るような青闇に、ぶちまけたような星がユナを励まそうと煌いた。
もう、家はそこまできている。
見慣れた風景、明かり。扉をあければ暖かな室に夕飯の香り。そして優しい笑顔。それらが雲ってしまわないよう、自分の胸の中にある渋い思いは決して外に出してはいけないのだ。
ユナは大きく息を吸い込んで、家の明かりをしっかりと見据えながら歩き出した。