さくら一粒
“残業してるから少し遅れる。どっかで待ってて。”

残業、その文字に詩織は怒り狂いそうになった。

こっちは金曜日の今日スムーズに帰れるように他の日に死ぬほど残業しているというのに。

その上で家事もこなして今日という日を迎えているというのに一体どういう了見だ。

「はぁ!?」

胸の内に留めておけず声に出してしまった。

分かっている。

仕事が出来ないから残業になる訳ではないこと、通常業務ではこなせない量の仕事があること、それは彼一人だけではないこと。

詩織の会社でも同じ様な人はたくさんいる。

怒っているのはそこじゃない。

「だったら一番最初に言えっつーの!」

耳から流れてくるバラードが涙腺をゆるませる。

なんでこうなるんだろう。

やるせない思いが胸を震わせた。

かみ合ってない、2人の気持ちが前みたいに合わさってない事実が詩織を苦しめる。

「最低。」

空回りしている気分だ。

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