恋愛の条件
奈央を乗せたタクシーを見送った後、片桐は背後に人の気配を感じ、ゆっくりを振り返った。

「今さらのこのこ出てきて何の用だ?」

片桐はポケットからタバコを取り出し、雨に濡れないよう手で覆いながら火をつけた。

「こんなところまで部長がお呼びか?」

「いいえ。俺があなたに用があったんです。」

激しく降り続ける雨の中、修一は射抜くように真っ直ぐ片桐を見た。

「渡しませんよ?」

「何のことだ?」

「奈央は絶対あんたには渡さない」

「彼女が決めることだ。お前じゃない」

片桐はゆっくりタバコの煙を吸い込みながら冷やかに笑った。

「いいえ、俺ですよ」

「まるで玩具を取られそうなだだっこだな。お前のその傲慢なところが彼女を傷つけているんじゃないのか?」

「あいつに触れることができるのも、傷つけることができるのも、俺だけだ。あんたじゃない」

「えらい自信だ……」

「事実を言っただけです」

「俺もお前と一緒だ。欲しいと思ったものは必ず手に入れる」

「じゃあ、残念ですね?奈央は絶対に手に入らない。俺が渡さないから」

「フッ……一応聞いておこう。明日からが楽しみだな?」

片桐はタバコを吸い終わると、そのまま居酒屋の方へと戻って行った。


「誰が渡すか……3年も待ったんだ」

修一は片桐の後姿を見送りながら、吐き捨てるようにつぶやいた。


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