恋愛の条件
「修、離して……」

「ダメだ、行かせないっ」

修一は奈央の細い腰が折れそうなくらい強く抱きしめた。

「プライドでも独占欲でも何でもない。俺以外の男のところに行くなよ……」

「修、何言っ……」

「何でわかんねぇだよっ……」

修一は吐き捨てるように言い放つ。


「さっきも言ったろ?俺は、俺はお前以外いらない。ずっとそうだった……」


(どういうこと?わからない……修の言っている意味がわからないわ)


この手を振りほどかないと、もう、そんな風に抱きしめないで、そう言わないと……
 
本気じゃないなら触らないで、そう言いたいにのに、心からそう思うのに

迫られた距離を、触れる指を、振り払うのは惜しいと思っている自分がまだいることに気付く。


(こんなバカな女いないわね?
 
でも、今この手を振りほどかなきゃ、今前に進まなきゃ……

私は一生この男に囚われる)


「修、お願い……」

奈央はそっと身体を修一から離す。

「奈央?」

「もう、辛くて限界なの。修のことが好きすぎて限界なの。修に触れられる度に自分が保てなくなって、ダメだとわかっていても感情に流される。そういうの、結構キツイのよ……」

奈央は声を震わせながら続けた。

「お願いだから、もう私を解放して……」

「違うっ!!」

「ううん、違わない。修は、私が片桐さんを取ることが許せないだけよ。さっき言った修の気持ちに意味があったとしても、それはすぐに醒めるわ……」

「俺は……」

いつもとは違う奈央の頑なさに、もう一度抱きしめようと力を入れた彼の腕が緩む。

「修、私ちゃんと笑って次に進みたいの。3年前みたいに泣きたくないの」

奈央は修一を突き飛ばすように自分の身体を引き離し、会議室を出て行った。


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