恋愛の条件
(そんな……急に二人にしないでよっ)


残された奈央と修一の間に気まずい空気が流れた。

奈央が素早く資料を片づけ、逃げるようにその場を去ろうとしたとき抑揚のない修一の声が彼女を呼び止めた。

「お前行くの?」

「----え?」

「クス、あぁ、返事してたな、『はい』って?」

修一はわざと嫌味っぽく言ってみせる。

「自分だって、自分だって関係ないって言ってたじゃないっ……」

「そんなこと言ったっけ?」

「(ムッカ~)何よ、また私は自分のモノだって言いたいわけ?いいかげんにしてっ!!」

「奈央……」

「それとも何?自分の玩具が取られそうでイヤなの?プライド?独占欲?」

奈央はファイルをテーブルに置き、大きく溜息をついた。

ちゃんと言わなければ……

「修、私もう疲れちゃった。認めたくなかったけど、3年前からずっと修への気持ちは変わらなかった。どんなに忘れようと思っても、いろんな男の人と付き合っても忘れられなかった。話し方も、タバコの吸い方も、その触れる指も唇も……忘れたことなんてなかった」

奈央は修一の前に立ち、ゆっくり言葉を選んだ。

「でもね、27になると結構疲れるのよ?不毛な恋愛ってすごく体力がいるの。今やっと前に進めそうなの。片桐さんなら……」

「……くな!」

先を言おうとした奈央の言葉は修一の切なく響く声で消される。

「行くなっ……」

ずっと黙って聞いていた修一が急に奈央の腕を掴み、自分の方へと引き寄せた。


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