恋愛の条件
11.つながる想い
どんなに惨めな夜を過ごしても朝はやってきて、目覚まし時計は容赦なく鳴る。

何も考えられないと言いながら、起きがけの身体は瞬時に時間を計算し、シャワーを浴び化粧をする。

今日も仕事があって、報われない恋の感傷に浸っている暇なんてない。 

何にも変わらない日常。

業務を淡々とこなし、取り繕った笑顔を張り付けるのも得意になった。


「広瀬さん、大丈夫ですか?」

横に立っていたのは両手いっぱいにファイルを抱えた佐野。

「……?私じゃなくて佐野さんの方こそ大丈夫?そのファイルどこに持っていくの?」

「あっ、これは広瀬さんに。WILに関係する資料と仕様書です」

佐野がにこにこと笑いながらファイルを奈央のデスクの上に置いた。

「あ、ありがとう。ごめんね、わざわざ持って来てくれたの?」

「はい。これくらいのお手伝いさせてください。でも、この3冊の仕様書を本気で読むんですか?」

「ええ、それが何か?私、専門的なことは詳しくないから、他の人以上に調べることが多いの」

「広瀬さんの知識は十分だと思います。黒沢チーフや片桐キャップと一緒にいすぎて感覚がマヒしているんですよ」

「----え?」

二人の名前を佐野の口から聞き、一瞬狼狽える。

佐野の言葉に他意はないとわかっていても、妙にまとを得ていて、奈央の顔に苦笑いがこみ上げる。

「あの人たちは別格ですよね?広瀬さん、体調崩さないように程ほどにしてくださいね?」

佐野が鈍感でよかった、奈央の表情の変化に気付いてないようだ。

「私はサポートだから平気よ。佐野さんも今中国市場大変なのにこっち手伝わせてごめんね?」

「そんなことないです、すごく勉強になりますから」

ぱぁと表情を明るくさせ、奈央に向けてくる彼女の笑顔はあまりにも純粋で眩しい。

眩しすぎて、一緒にいる自分が酷く汚い大人になって見える。

取り繕ったような自分の笑顔は、自分を少し惨めにした。


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