恋愛の条件
「それにしても黒沢チーフ遅いですね?」

「そうね、打ち合せが伸びているのかしら?」

「う~ん。チーフがいないと進まないのに」

「一応WILの基本計画案は作成したけど……」

仕事は進まないが、修一が朝から社外で打ち合わせでよかった。

先週みたいにこのまま出張に行ってくれたらいいのにと、外出先ボードを見遣る。

同じオフィスは時々、いやすごく残酷だ。

恋愛が上手くいっている時は好きな人が同じオフィスにいるだけで心が弾んだ

でもその逆は声が聞こえるだけで心が苦しくて、同じ空気を吸っているかと思うだけで過呼吸になるくらい辛い。


(佐野さん、裕樹と上手くいっているのかなぁ?ツヤツヤの肌してすごく幸せそう。私も入社したての頃はあんな風だったのよね)


もっと素直で、打算なんてなくて、毎日を真っ直ぐに生きていたような気がする。

そして『カッコイイ恋愛』を大人になればできるって思い込んでいた。

でも現実はどんなに仕事をこなしても、ブランドの服を着て化粧を完璧にしても、 同じことで悩んで傷ついている。

誰かを好きになって必死になっている自分は大人になった分滑稽かもしれない。

それが報われない恋だと尚更惨めに感じる。



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