恋愛の条件
「じゃぁ、俺オフィスに戻るから」

「うん……」

離れた体温が少し恋しいが、奈央は素直に頷いた。

「チッ……」

修一は目を細めて舌打ちしたかと思うと、もう一度奈央を自分の方へと抱き寄せた。

「修?」

「そんな顔すんなよっ……」

「えっ、何?」

「お前……思ったこと顔に出るってよく言われね?」

意地悪な顔をした修一が喉の奥でクツリと笑う。

「えっ///」

「少しは自覚して?でないと俺、我慢できなくなるから?」

修一は、ちゅっと音を立てて額にキスをし、その身体を離した。

「し、知らないわよっ!さっさと行きなさいよっ!」

奈央はクスクス笑いながら足早に逃げて行く修一に向かって思いっきり枕を投げつけた。

修一が去った後、奈央は倒れこむようにベッドに横たわり、修一に渡されたカードキーを見た。


(夢……じゃないわよね?エイプリルフールはとっくに過ぎたし。
本当に?修が言ったことは本当なの?)


奈央は何か大事なことを忘れているような気がしたが、全てがあまりにも唐突で、それが何か思い出せないでいた。

奈央を連れて行くために戻ってきたと言った修一。

もし、自分が断ったらどうするつもりだったのだろうか。

そもそも奈央が断るかもと考えなかったのだろうか?


(すっごい自信家……まるで私が必ず付い行くと思ってるのよね?)


ついて行く……んん?

奈央は今やっと大事なことを思い出し、バガッと身を起こした。


「そうだ!!チーフ!!」


自分は山内課長に次のチーフにと押されていたのだった。

突然の修一の告白にすっかり忘れていたが、そっちが先だったと頭を悩ます。


(ど、どうしよう……?)


奈央は再発しそうな頭痛をこらえるように額に手を押し当てた。


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