恋愛の条件
最近は暖冬と言われているが、夜は身に沁みるような寒さに顔が引き攣る。

ましてや、この二人を前にしていては、別の意味で顔が引き攣りっぱなしだ。

「バカップルに振り回される私の身にもなってよね」

「お前、山下と同じこと言うなよ」

「やめてよ。あんな根性なしのドМ男と一緒にしないで」

沙希は思いっきり嫌そうな顔で修一を一瞥する。

すぐ横にその山下の「彼女」がいてもおかまいなしだ。

「あっ、佐野さん久しぶり。元気してた?」

「は、はい。お久しぶりです」

佐野は慌てて頭を下げた。

ここ二日間、奈央と山下両方から嫌と言うほど修一の話を聞いていたので、半年振りに会った気がしない。

かつての上司に挨拶もしていなかったと、恐縮する。

顔を上げると修一は「チッ」と舌打ちをするものだから佐野はひどく焦ってしまう。

だが、その視線は佐野にではなく、その背後の人物にに向けられていた。

「千夏、そんなヤツに頭下げなくていいから」

その優しい声に振り返ると、ポンと頭の上に大きな掌が乗せられた。

「山下さん……どうして?」

佐野の表情に申し訳なさと嬉しさの両方が入り交じり、どう反応していいかわかず狼狽える。

「千夏が心配で迎えに来た」

山下がにっこり微笑み、躊躇う佐野の手を取った。



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