恋愛の条件
裕樹はどこに行くとも告げないまま、奈央の手を取り足を進める。

いつも温厚な裕樹にしては珍しく強引だ。

いつもの奈央ならその手を振りほどいていたにちがいない。

だが、いつもとは違った裕樹の苛立った表情に、強く引く腕に、胸の奥がトクンと鳴る。

何かを期待していたのだろうか?

この惨めに落ち込んだ気分を慰めてくれる優しい言葉を期待したのかもしれない。

二人は、会社から徒歩数分のところにあるコーヒーショップへと立ち寄った。

カウンターでコーヒーを受け取り、窓側の席に座る。

喫茶店とは異なり、この手のコーヒーショップは隣同士の席が近くテーブルが小さい。

声を落としても隣に人が座れば会話は筒抜けだ。

こんなところで何の話が?と思いながらも、隣に誰も座っていないことを確認して奈央から口火を切った。

「で、別れた女に何の用?」

胸は高鳴るが、奈央はあえて冷たく言い放つ。

そんな早々安い女にはなりたくない。

もしかしたら裕樹は寄りを戻したいと言ってくるのかもしれない、そんな予感が脳裏を走る。


(寄りを戻すなんて今更よ!もしそんなこと言ったら……)


「あぁ、あのさ……」

急かす奈央とは対象的に、裕樹は言葉の切れも悪く視線を泳がす。



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