恋結び【壱】


頭に、ソッと、被さる遥の大きな手。
その手からじわじわと、頭上から熱が染み込んでいく。
規則正しい呼吸と、穏やかな遥の「よしよし」という声があたしの鼓膜を揺さぶる。

その、遥の行いに、あたしは涙を止めた。
いや、正しくは、止まったのだ。
お母さん以上の温もりを持っていて、とてつもなく、安堵していた。

あたしは、そっ、と、逃れようと試みる。
が。
あたしの行いは、火に油を注いだみたいだった。

「ん…、ちょ、遥…!!」

「んー?何?」

遥の胸板に強く、強く押さえ付けられる。
腕の力はどんどん増していって。
あたしに上手く喋ることすら与えない。

あたしは、ちょっとの隙をを見つけ、顔を遥の胸から解放させる。
思いっきり空気を吸うと、視界には妖艶な笑みを浮かばせる、遥の顔。

その顔に、あたしはただ、口をパクパクすることしかできない。
徐々に赤くなる頬にそっと、生暖かい春の風が煽る。


熱を含むあたしの目をソッと、撫でるように。
遥の吐息がかかった。

「ん…」

その勢いで、目を閉じる。
綺麗な顔立ちをした遥が羨ましくて。
腹がたつほど、艶やかな笑顔で。
どくん、どくん、と、音を弾ませる鼓動が、憎い。

悔しい…。

遥が微笑む度に、焦がれるあたしの心。
遥の仕草や、行い、一つ一つにあたしは振り回されっぱなし。

そしてまた、あたしは身体を揺さぶり、自由を求める、

「…離れたいですか」

「も、もちろん!!」

「そっか…。………でも」

遥は真っ赤に染めた、あたしの耳に唇が付くか付かないかまで、接近させた。
そして、ボソッ、と、囁く。

「…でも、俺は離れる気なんて、これっぽっちもないから」

「っ!!!」

ビクッ、と、波打つあたしの身体は、敏感に熱を発する。
身体の芯から熱が引き出され、肌に向かって上昇してしまう。


ねぇ、遥。
遥から見て、あたしは。
あたしは…。



どう、見えるの?





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