月下の幻 太陽の偽り (仮)
いまさっき殺しの現場を見たばかりで、人殺しであることに疑う余地などあるはずもないのに…

彼は、まるで人殺しの風貌を見せなかった。

「俺はなにもしない、逃げるなら好きな時に逃げるといい。」

そう言って彼は武器を持ち、また門の隣の部屋へと歩き始めた。

部屋の扉を開き、中に入ろうとした時、彼はまたこちらに視線を向けた。

「それじゃぁな。」

彼は、小さな微笑みを向けていた。

その表情に私は心を許したのか…

「ねぇ…」

何を思ったのか、私は彼を呼び止めていた。

「もう会わないと思うけど、私の名前を聞いたんだからそっちも名前を教えてよ。」

そう言って、私は一歩だけ近づいた。

不思議と私は落ち着いていた。


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