血も涙もない【短編集】
「証拠は?」
殺気立つ夜尋の不適な笑顔は、俺の背中に変な電流を流す。その時初めて実感した。これが殺し屋の殺気か。殺すことに迷いも情ない、ただ貫くだけ。
「証拠なら、あるわ。お兄ちゃんはね、あの女に会うって言った日は必ず首筋に傷を付けて帰って来てた」
そして、俺にぐっと近付くと、ネクタイをほどいた。
抵抗を見せた手は簡単に弾かれ、Yシャツのボタンを二つ取る。
そして、俺の首筋を見て、ふっと声を漏らして笑った。
「ほら、先生にもある。お兄ちゃんとおんなじ傷。お兄ちゃんの死体にもあった」
恵実が血を吸うときに出来た傷だ。まるで動物にでも噛まれたかのようなそれ。
「当たりね」
シャキンとどこからかナイフを取り出して、俺の首に押し当てる。
そして、更に二人の顔が近付くとそこにあったのは、憎しみに歪む夜尋の顔だった。