血も涙もない【短編集】





─────少しだけ、懐かしい話をしようか。

まだ君と笑い合っていた頃の話をしよう。


「………海羅ちゃんにはさ。大切な人っている?」


ブランコを漕ぐ俺の膝の上に座る海羅が不思議そうに顔を見上げる。


「たいせつなひと?」

「そ。お母さんとかお兄ちゃんとか」

「うん!たいせつ」

「……俺にもね、」


俺にも大切な女の子がいた。

傷つきやすくて、
いつだって冷静で、
時々、母親みたいなこと言うけど、それも俺のことを心配してくれてるからだって、分かってた。

いつだって俺が一番で、
自分のことは後回しで、
もっと我が儘言っていいぞって言うと、うるさいって顔を隠すような、そんな女の子だった。


「すごくすごく、大切な子なんだよ」



俺が死ぬ前日、俺たちは些細なことで喧嘩をした。
すぐ謝って仲直りってなるはずだった。

喧嘩だって初めてじゃないし、お互い仲直りの仕方だって知っていたのに、



ごめんを言う前に死んでしまったんだ、俺は。






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