はらり、ひとひら。


顔に出さないよう努めたが、果たしてうまくできているのか自信はなかった。

「はー……みんなここのところどうかしてるよ。
妖は元より、神たちも霊界でざわついてるし、居心地悪くて仕方ないったら」

いやだなあ、とぼんやり呟いた蛟だったが、それでも大して困った様子はみられない。
客観的にみた感想、といったような口ぶりだ。

「何か…大変な出来事でもあったの?」

「ん? いやーどうだろうね。まあ戦えない、力の弱い者ほどよく吠えると言うよ」

「? えーっと…よくわかるように言ってくれる?」

なんだか的を得ていない発言だ。それとも、単に言葉を濁しているだけなのか。

「まあじきにわかるよ」

ぽん、と髪を撫でた蛟にそれ以上追求はできなかった。

踵を返す前に、蛟は屈み込んで左右色の違う目で私を深く見つめる。

「…? な、にか?」

「………ん。よしっ問題ない!綺麗な目」

「ええっ?」


なにそれ、とズッコケて見せると蛟は屈託無く笑って今度こそ踵を返した。

青緑が吸い込まれて行く。
森の深い青さに飲み込まれるようにして─


「人の縁はよくも悪くも、一度結んだのなら、大切にするんだよ〜」


まあるい笑顔と明るい声で、そんな言葉を残して。


「……師匠」

「断る」

「帰ろっか」

「おい! 何を自然と乗せようとしている! 嫌だぞそんな薄汚い小僧、私の背に乗せるなど言語道断これ以上ない屈辱だやめろおおお置いてけぇえ!」


ものすごい拒否の仕方にお腹を抱えて笑って、なだめすかして二人分の重さによろける師匠と一緒に私は家路についた。



遠い昔、誰かが結んだ縁。


時を超えて出会ったのは偶然? それとも…必然?


定まりきらぬ不安定な基盤の上、《私たち》というコマはゆっくり、だけど、確実に、『終わり』へ向けて歩みを進めていた─。




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