はらり、ひとひら。


「脱線したけど、ま、結局俺たちに今できることは一刻も早く麻上を見つけることだな」

「うん。下手に刺激しないようにして、岩の管理も厳しくしよう。近づく不審な人物がいたら、すぐに特定するように」

「任しとけ。宝生の名にかけて、な」


屈託のない笑顔に安心してすこしばかり胸が軽くなった。いつだって千鶴兄さんの笑顔は俺を安心させてくれる。

だから俺は、それを力に変えるよ。


「椎名さんは、どこまでこの一連の話を知っているのかわからないけど。すべてを知るときは、今なんだと思う」


彼女はそもそも、この町にいなかったし、もともとは妖すら見えないただの女の子だった。

桜子さんは椎名さんを、この争いから遠ざけたかったのかもしれない。だからこの町を出て行った。

だけど、因果は収束してしまったのだ。彼女は、戻って来てしまった。


正直、戦いに巻き込むのは心苦しい。だけど、椎名さんの力を借りたい。必要なんだ。


「いいと思うぜ。真澄の気持ちと歴史、ちゃんと伝えるべきだと思う」

「そうだねぇ。ただし、主は男の子なんだからしっかり守ってやんな」


「…うん」


二人の眼差しを受けながら、深く頷いた。

守ってみせる。何を賭しても。失わせるものか。



・ ・ ・



昔、小さな村を統制していたのは神崎と麻上という二家だった。


二家は村の安寧を脅かす悪鬼どもを打ち祓い、協力的な関係のもと、─時には競いながら村を発展させていった。


時を同じくして、村で評判の非常に美しいおんながいた。長い髪に透き通った眼。花のような笑顔は村中の男を虜にした。


その女の姓を、椎名。


神崎家当主は椎名をいたく気に入り、快諾したおんなを嫁に迎え………二分された村の勢力を…統…しようと麻上と、刃を交え…………


~中略~


怨みを募らせた麻上は、配下である平坂を禍津…に仕立て上げ、神崎家もまた、最愛なる妻を…にし、そのふたつの女の御霊は7日7晩、争い続けた。


闘いに敗れた…姫は、襲岩に封じられ、見事に鬼を祓った…は神となり、関高築神社へと祀られた。のちに、霊魂を鎮めるため、…姫も同じく、誇り高き神と祀られ、同じ社へ御神体が奉納されたのが確認されている。



──『関高築町の歴史』頁12より 汚れにより修繕不可能な箇所、多数



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