はらり、ひとひら。


・ ・ ・

side-杏子


「もうちょっと暴れられるかと思ったけど…よかった。案外おとなしくて」

「……そんな元気あったら今すぐあんたなんて張り飛ばして、脱走してる」


それもそうか、と納得して少年の体に包帯を巻く。

傷はもう塞がったし痛くも痒くもないからいらない、と言ったけれど…傷跡はいまだ、生々しい。見ているのもつらいからと言えばそれ以上少年は拒否するのをやめ、手当を受け入れた。


長い睫毛が青白い頬に影を落として、少し荒れているけれど薄く開いた唇は人形のように美しい。つくづく人間離れした顔立ちだ、と思う。


数分前、気を取り戻して今にも噛み付きそうな顔をしてたとは思えない。

思ってたよりなだめるのに苦労しなくて助かっちゃった。


「ごめんね、いきなり連れてきちゃって。動ける様になったら、いつでも出てっていいからね」

「…せまいし、くさいし、最悪だ」

「っうそ、エッ、く…くさい!??」

がーん、と大岩ぶつけられた感覚。

そんなこと今まで言われたことなかったから気づかなかった、なんてこった…! 昨日部屋で何かにおうものでも食べたっけ!?


「ま、窓! 開けるからちょっと待って…!」

「ちがう。そういうんじゃない。女くさい」

「ぶっ」

眉を寄せた少年に「それは仕方ないじゃん」と肩を落とす。

「…いいよ。別に。そのうち、慣れると思う」

「…ソウデスカ。すんません……」

いや待って。これ私謝る意味ある?


「えーっと、少年…ぼく? 君? せめて名前くらい教えてくれないかな」


呼びづらくて敵わないと言えばそろりと視線をさまよわせたあと、ぽつり、小さな声。



「薫(かおる)」



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