美味しい時間

『お前、今の言葉、本気で言ってるのか。私なんかとか、もう終わりにとか』

本気なはずがないっ。どうして好きな人と別れなくちゃいけないのか……。
課長の怖いくらいに真剣な声に、本当の自分の気持ちを叫びたくなる衝動に
駆られてしまう。
大きく深呼吸して、その気持ちを押さえつけると、小さな声で返事をした。

「はい……。本気……です」

しばらく沈黙が続いた。それを冷ややかな声が破った。

『分かった……』

そう言うと、プツッと電話が切れた。

終わった……。いや、自分から終わらせてしまった。
これで課長と私は、元の上司とその部下のひとり……という関係に戻って
しまった。その関係すら、続けていくのは難しいかもしれない。

明日から、どんな顔をして会社にいけばいいのか分からない。普通に会話する
自信もない。倉橋冴子が課長と話しているのを、平気な顔をして見ていられる
だろうか……。

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