美味しい時間

「ご、ごめんなさい。今の私の言葉は聞かなかったことにして」

「それ、どういう意味?」

「だから……倉橋さんとお見合い……したほうがいいと思います」

課長が怪訝な顔をする。
そりゃそうだよね。お見合いしないでって言ったり、したほうがいいって言っ
たり……。自分が何を言ってるのか分からなくなってしまった。
もう頭の中がごちゃごちゃで、どうにかなってしまいそうだ。
課長の腕を掴んでいた手を離すと、床にだらりと座り込み項垂れた。

「百花、どうしてそう思うんだ?」

「それは……」

倉橋さんに言われた言葉が、頭に過る。

-----あなたの出方次第では、課長の首も危うくなる-----

そうだよね。私の些細な行動が、課長の将来を狂わせてしまう。
そんなこと、私には出来ない。
無理やり笑顔を作ると、顔を上げた。

「やっぱり課長みたいに将来有望で素敵な人には、私なんかより、倉橋さんの
 ような、美人で才能溢れた人がお似合いだと……思うから……」

課長の顔が見る見る険しくなっていき、私の声も尻窄みに小さくなってしまう。
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