美味しい時間

自分で言った言葉なのに、心はひどく傷ついていた。自分で自分の身体を
抱きしめる。
俯いて身体を小さく震わせていると、頭上から大きな溜息が聞こえてきた。

「はぁ……。なぁ、今日電話の時に俺が行った言葉、覚えてるか?」

あんな俺様的な言葉、でも課長からの気持ちが痛いほど伝わった言葉……。

-----俺を信じろ-----
-----お前だけを愛してる-----

忘れるはずがない。
今でも課長のことを信じてる。私だって課長だけを愛してる……。
しかしそれは、言ってはいけない言葉。
口に出してしまうと、また本当の気持を言ってしまいそうで、小さく頷いて
答えた。

「じゃあ何でっ……」

私の両肩に手を乗せ、責め立てるような、それでいてどこか悲しんでいるよう
な声が私の身体に響いた。
胸が苦しくなってきて、また涙が出そうになる。

痛いほど唇を噛みしめ、一生懸命涙をこらえていると、課長が私から離れる
気配を感じた。





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