美味しい時間

まだドアが全部開ききっていないところで、胸元のバスタオルをギュッと掴んで
顔をひょこっと出す。少し呆れ顔の課長が、腕を組んで立っていた。

「やっぱり腹が減って出てきたか」

「そ、そういう訳じゃないけど……」

「ほらっ」

差し出された手には、着替え一式がある。
ばつが悪く俯き加減でトイレから出ると、服を受け取るため右手を出した。
その手首を強く握られ引っ張られると、驚く間もなく課長の胸にぶつかった。

「ぶわっ!!」

しかしそれも一瞬のこと。あっという間に身体が浮く。

「服着るんだろ? 寝室まで運んでやる」

どうせ嫌だって言っても却下されるんだ。じたばたしないで素直に運ばれること
にした。

「運ぶだけにしてね」

「手伝ってやろうと思ったのに」

笑いながら「ざ~んねん」と言うその顔は、いつもの意地悪な顔じゃない。少し
ホッとして首に絡めている腕に力を込めた。二人の密着度が上がる。

「もう絶対に離さないからな」

甘い言葉に、身も心も満たされる。

「うん……。でも、そのお尻をさわってる手、離して」

「おっ。百花、冷静だな」

大笑いしている課長の頬を、優しく抓った。




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