美味しい時間

勢い良くドアを閉め鍵を掛ける。大きく溜息をつくとトイレに腰掛けた。

「全裸で課長に跨るなんて……」

思い出すだけで恥ずかしくなってきて、目に涙が溜まってきた。
でも元はといえば、私をからかう課長が悪いんだ。
トイレットペーパーを手にぐるぐる巻きつけると、今にも溢れそうな涙を溜めた
目を押さえる。同時にドアを叩く音がした。

『おい、百花。何だよ、大嫌いって?』

「こ、言葉の通りですけどっ」

『ふ~ん。前に置いていった下着とワンピースあるけど、いる?』

そうだった。以前、会社帰りでも泊まれるようにって、何着か置いてあったのを
忘れてた。
でもこのままトイレから出るのも癪だよなぁ。
鍵を外すかどうするか迷っていると、クスクス笑う声が聞こえてきた。

『も、百花って、結構意地っ張りなんだな』

「笑ってるし……」

『なぁ、腹減らない?』

そう言えば、朝ここに来てから何も食べてなかった。と言うか、そんな時間が
まったく無かったと言った方がいいかもしれない。昼間の情事を思い出し、身体
がポッと熱くなるのを感じた。

「ところで、今何時?」

『6時回った』

どうりで外が薄暗いわけだ。お腹もギュルギュル鳴っている。
もう一度自分の姿を確認し、バスタオルをキツく巻き直す。
カチャッと鍵を外すと、ゆっくりドアを開いた。
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