その両手の有意義な使い方
第二話 … しあわせと傷
「フミさん!」

午後一時三分すぎ。
丁度学食から出てきたところで、文佳は高遠に呼び止められた。

大きな声で名前を呼び、両手を振って遠くからアピール。
文佳をその場に確保したところで、でかい靴を鳴らしながら走ってくる。

尻尾が生えていたら、きっとちぎれんばかりに振っている。

「わざわざ走ってこなくても」

取り澄ましたあきれ顔に、わざとらしい溜め息を添える。
笑みを返すには、少々文佳は素直さが足りない。

「たかが数メートル。走らなくても逃げやしないわよ」

「でも走ったお陰で、フミさんに数秒早く会えた。今日はついてるね」

「ばっかじゃないの」

ついついこじれてしまう口は、嬉しさの裏返しだ。

高遠が示すわかりやすい好意は、いつ貰っても心地好い。
ここにいて好いような気分にさせられる。
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