悪魔の熱情リブレット
第十八幕



 ゆっくりと流れていく緑の景色。

馬の蹄の音がのどかな森の道に響く。

今、アウレリアは馬車に乗っている。

馬車と言っても、貴族が乗るような豪華なものではなく、農業用に使う荷車と言った方が正解だ。

「もうすぐ着くぞー」

この荷車の御者である農家のおじさんがアウレリアに声をかけた。

「この森を抜けてすぐだ。そら、見えてきた!」

木々の間から姿を現した町。

「あれが…シャッテンブルク…?」

初めて目にする廃墟の町に、なぜだか彼女は恐怖よりも先に懐かしさを感じた。

「あ~、すまないが…ここで降りてもらえないか?これ以上は近づきたくないんでな」

「あ、はい。ここまでで十分です。ありがとうございました」

アウレリアは丁寧にお辞儀をして荷車から降りる。

「帰りはどうすんだ?」

「一番近い村までなら歩いて行けますから、そこでどうにかします」

シャッテンブルクに行くため村を出て、近隣の町を訪れたアウレリア。

そこでたまたま町へ買い出しに来ていた愛想の良い農夫と会った。

彼にシャッテンブルクのことを話したら、「近くを通るから乗せてってやる」と申し出てくれたのだ。


< 264 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop