窓際のブラウニー
気を利かせてくれたマスターが絶妙なタイミングでコーヒーをテーブルへ置いた。
「ごゆっくり…」
白いコーヒーカップは、完全な丸ではなく楕円形をしていた。
底が浅い分、底の面積が広く、変わったカップだった。
白いコーヒーカップの横には小さな洋菓子が添えられていた。
「これ、ブラウニーですよ!食べてみて!」
さっき天井を見つめていた渋い表情が一転して、やんちゃな子供のようになる。
腕組みをして、その腕をテーブルに乗せた田所さんは、私の顔を覗きこむ。
ゆっくりとブラウニーを口へ運んだ私を、穴が開くほどじっと見つめていた。
恥ずかしくて、顔が熱くなるのに、目をそらして欲しくはなかった。
口の中に広がるチョコレートの甘さとナッツの香り。
「美味しい!!」
小さなブラウニーは、私の口の中で溶けた。
「でしょ?これが僕の目指すブラウニーなんです。」
そう言って、田所さんは満足そうに、マスターと目を合わせて頷いた。
「これも食べていいよ。」
田所さんは、自分の大好物であるブラウニーを親指と人差し指でそっと挟み、持ち上げた。
田所さんが食べてください、と言おうとしたが、声が出なかった。
彼の手が私の口へ…
彼の指が…
私の唇に触れたかも知れない。