一度の保証(短編集)

久美

久美は、火が出そうなほど体を熱くし、タクシーを見つけるまで走った。


迷わず乗り込み、運転手に言う。


「すみません、ミナミのほうまで」


かーくんが、久美を見て、何が起こったのか分からないといった顔をしていた。

「久美?え?なんで?」


「なんでって、久美が留衣の家に行ってたら何か悪いん?」


久美は、涙声になってしまい言った。


「いや、悪くは…
あ、久美?」


「何?」


「裕馬と逢った?」


「部屋に入ってきたから逢ったけど?」


「やんなぁ…
…」


ミナミにつくまでタクシーの中では、もう話さなかった。


そして、かーくんが、タクシーのドライバーに言う。

「あっこの辺で」


そう言われ、車を道路の左端に寄せ止まり、かーくんが、お金を払い降りた。


「かーくん、ちょっと話そ」


「俺、店 もどらなあかんねん。
店終ってからじゃあかん?」


「あかん」


「じゃあ、ここで話して」


「ここで?せめてどっか座るとか」


「俺 あんま時間ないし、座って話されへんわ」


「わかった。
なぁ、かーくん?
かーくんは、久美の事 愛してくれてる?くれてた?ちょっとでも…」
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