。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



その晩は夢も見ず、ひたすら深い眠りに入ったようだった。


こんなこと随分久しぶりだ。


戒の爽やかなミントの吐息に包まれて、戒の力強くも優しくてあったかい腕に抱きしめられ―――


何も考えずに、深く、深く―――


まるで深い水底に引っ張られるかのように眠りについていたとき、遠くで囁くような声を聞いた。





「大好きやで、朔羅」





戒の―――声を。



あたしも大好きだよ、戒―――





―――





P、PPPPPP!


次の日の朝はホテルのデジタル時計でセットしたアラームによって起こされた。


PPPPP…


けたたましく鳴り響くアラームに、


「ん゛ー…」不機嫌に唸って、もぞもぞと体を動かし手を布団から出してアラームを止めた。


隣で僅かに布団がもぞもぞ動いて、寝ぼけていたあたしは一瞬、


「あれ?ここどこだ?」なんて思って布団をちらりとめくる。


布団を捲ると、ふわふわ可愛い笑顔の戒がにっこり顔でこっちを見ていた。


バっ!


思わず布団を戻し、「今……何か幻覚が……?」


だけど気になってもう一度そろりと布団の端を捲ると、


「おはよ」


戒の爽やか過ぎるぐらいの笑顔が、またも布団から覗いた。


またも布団を戻して―――


げ、幻覚じゃない!!と昨日のことを思い出して急に慌てるあたし。


「おはよ~」


ガバっ!布団が突如跳ね上がり、戒が飛び出してきてた。


「ギャァ!朝から抱きついてくんな!!!」






またいつのも一日がはじまる―――



戒の「おはよーのチュー」攻撃を避けながらも、


でもいつも以上に、あたしは幸せだった。






だけど平和ボケしていたあたしは、このときまだ知らなかった。




このあととんでもない事件が勃発するなんて―――






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