。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
男が回れ右をして走り出す。
「待てや!」
俺の声にビビったように一瞬だけ歩を止め振り返るが、顔を青ざめさせて再び走り出す。
バカめ。この先は袋小路だ。背の高いフェンスがあるが、それを乗り越える前にとっ捕まえてやる。
俺と響輔は同じタイミングで、二人してそいつのあとを追った。
男は後ろを振り返りながら、立てかけてある他の店の看板やらゴミ箱やらを俺たちの足止めに倒していく。
俺たちはその都度飛び上がったり、避けたりでなかなか男を捉えることができなかった。
思ったより脚が早い。
「ちっ。ちょこまかと」
俺が予想した通り、そいつは後ろを振り返りながらもフェンスをよじ登る。
ガシャン、
猿みてぇなヤツだ。フェンスの金網を使って器用によじ登っている。
「響輔っ!」
俺が合図すると、響輔は地面に膝をついて腕を差し出した。
響輔の手が飛び上がった俺の足裏を持ち上げ、勢いがつく。
そのサポートもあってか、俺の身長より上の位置までフェンスをよじ登っていた男に、俺の蹴りを命中させることができた。
ドサッ
男がみっともなく地面に倒れ、蹴り飛ばした俺は両脚で着地した。
倒れた男を見下ろしながら俺は手の関節を鳴らす。
「聞きたいことがあんねん」
「ぉら!立てや」
響輔が男の胸ぐらを掴んで無理やり立たせると、
「ひ、ひぃーーー」
男はみっともないぐらいの声を上げて後ずさりした。
そのときだった。
バタン!
裏口の扉が突如開いて、俺たちは、はっと顔を合わせた。
誰かに見られるとマズい。
男を背後から羽交い絞めにして、響輔が素早く男の口を手で塞ぐ。
そのまま引きずるようにして、建物の影に隠れた。