。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
建物の影に身を潜めながら、俺は少しだけ顔を出して裏口の様子を探った。
今拘束しているこの男と同じ制服を着た若い男と、店のホステスだろうか大きく胸の開いたワンショルダードレスの女がなにやら言い争っている。
「もう嫌よ!!」
女が叫んだ。
「何寝ぼけたこと言ってんだ!借金まだ残ってんだろが!」
バシッ!
「キャア!!」
乾いた音と女の叫び声がして、同じように顔を出していた響輔が目を険しくさせた。
どうやら男が女の頬を打ったようだ。
「金を返済するまでしっかり働きやがれ!」
男の怒鳴り声が聞こえて、
「借金たって、あんたたちが仕組んだんじゃない!汚いわよ!手形の裏書きなんて!!」
手形の裏書き―――
それは借金の『連帯保証人』になったと言うことを意味する。
あまり知られてないが、闇金業が良く使う裏技だ。
知人友人に、手形のサインを求められたら要注意。
女は自分が連帯保証人になったことも知らなかったんだろう。借主は当然今頃ドロンだろうな。
「響輔、こいつを逃がすなよ」
俺はそれだけ言いおいて、建物からゆっくりと出た。
「待ちぃや。女騙して、その上手を上げるたぁ男の風上にもおけんやっちゃな」
俺の登場に二人は驚いたように目を開いている。女の方は打たれた頬を押さえながら涙を浮かべている。
「た、助けて!!」
女の方が慌てて俺の後ろに回りこんできて、ぎゅっと俺にしがみついてきた。
「お、お前っ!と、虎間っ!!」
こいつも伸した相手だったか、人数が多かったから一々覚えていなかったが、
全員弱くて、準備体操にもならなかった。
俺は関節を鳴らすと男を見据えた。
「どーせお前ら女たちをうまく騙して、風呂に沈める(風俗に売り飛ばす)寸法やろ。
ほんっま、胸糞悪りぃ話しやな。関係ない女をどこぞの風俗に売り飛ばすやなんて」
俺の言葉に女が一層震え上がって、俺の背中にぎゅっとしがみついてきた。
「俺はそんな風に女を虐げる野郎が一番嫌いなんやわ。覚悟しいや」