。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。


「どうだい?これから夜景のきれいなホテルなんかで一杯やり直すってのも?」


男が聞いてきて、


は?こいつ何聞いてんの?酔っぱらったていったじゃん。


と冷めたあたしが心の中で突っ込みを入れる。


まぁこの男としても一杯やり直すってのは単なる口実だろうけど。


でもここで断ったら、CMの話しは流れるだろう。かと言って簡単になびくのも癪だ。


「そうですね、どうしようっかなぁ……門限もあるし」


あたしは考えるふりをした。『行きます』と即答しないところが気に入らないのか、男がさらに肩を抱く手に力を入れる。


「門限?君のパパは厳しい人なの?」と本気にしてない様子であたしを覗き込んでくる。


「ヤクザの組長なの♪」


にこにこ答えると、男は一瞬「え゛!」と声を上げて怯んだものの本気に捉えていないのか、


「youちゃんは面白いなぁ」と更にあたしを引き寄せる。


嘘はついてない。


前のあたしだったら、この下心丸出しのやらしい手さえも利用して、「ええ、是非」と答えていただろう。


“好き”だとかそう言う感情じゃない。割り切っていたし、あたしだって利用してやろうと言う下心があった。


でも今はただひたすらに―――





気持ち悪い。






今日は鮮やかなオレンジ色のケリーバッグに―――響輔がくれたテディベアがくっついている。


そのテディを見下ろすと、あたしの歩調と一緒に揺れていた。




響輔は―――……


きっとあたしが誰とどこで何をしようと気にしないだろう。


この男と寝ることに嫉妬もしなければ、反対もしないだろう。


このあと―――


あたしはこの男とキスをするのだろうか。感情のないキス。


口付けを交わして、服を脱ぎ―――ベッドへ……


せめて雨でも降ってくれれば、東京の夜景を台無しにしてくれるのに。生憎雨の気配もしないし、


普通の女だったらきっととびきりロマンチックなそのシチュエーションに酔いしれるだろう。


この男はそれを狙っているのだ。


そんなことをシュミレーションをしていると





ゥウ゛ォン!!!






頭上で聞いた覚えのあるエンジン音が響いた。






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