。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。




その派手なエンジン音は、静寂に包まれた夜の駐車場に響き渡った。


あたしと、あたしの肩を抱いていた男が同じタイミングで顔を上げる。


見上げた空を、頭上を―――、一台の黒い





シャドウファントムがまるで鳥のように鮮やかに横切っていった。





大きな黒い羽を羽ばたかせ優雅に舞い飛ぶ、



―――“鷹”の姿を見た気がして、あたしは目をまばたいた。





まるでスローモーションのように流れるそのバイクの動きを、(いえ、実際にはかなりのスピードだと思うけれど)目を開いて見つめていると、


バイクはあたしたちの数メートル先で、前輪からきれいに着地した。


確かめるまでもなく、バイクにまたがっていたのは―――…後ろ姿でも分かる、





響輔―――





「な、何だ!?」と男が目を剥いている向かい側で、響輔はハンドルを持ち替えて脚で地面を蹴ると急転換してこちらに向かってきた。


かなりのスピードだ。


な、何!?


眩しすぎるぐらいのヘッドライトがあたしたちを照らしだし、男が目を庇うようにあたしの肩から手を離す。


その一瞬をついて、響輔の腕が伸びてきた。


細いのに、力強い腕であたしの腰を捉えると、横抱きにして手際良くあたしを響輔の脚の間に座らせる。





「悪いな。この女もろてくで」






響輔は少しだけ楽しそうに笑って振り返り、男に軽く手を挙げるとあたしを乗せたままスピードを上げてユーターンをする。


「ちょ!ちょっと何なの!?」


「しっかりつかまっとき。ちょっとスピード出すで」


響輔はあたしの質問に答えずギアのスロットルを回し、あたしは思わず響輔の腰にぎゅっと腕を回した。



ううん―――スピードを出さなくても、あたしは―――





響輔をこうやって、抱きしめたかった





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