。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。






それでも、何でかな……



涙が出てきそうなほど悲しい―――


胸が締め付けられるぐらい、苦しい




目頭にたまりはじめた涙のしずくをあたしは慌てて親指で押さえた。


玄蛇は「だから言ったじゃないか、気をつけろと。ね」と咎めるような視線の反面、


少しだけ同情したような、切なそうに眉を僅かに下げていた。


その視線からあたしは慌てて顔を逸らし、鼻を啜ると鼻の奥につんと嫌な痛みを感じた。


その痛みに混ざって僅かな雨の気配を感じさせる、湿気を帯びた空気の匂いを感じ取る。


あたしは窓際に立ち、硝子窓に手を置くと空を眺めた。


「雨の予感―――…」


あたしの小さな独り言に、


「へぇ。天気予報は一週間晴れだと言ってるけどね」


と玄蛇が答える。


「予報は外れるわ。明日は雨よ。それに気圧の変動が激しい。


台風かもね―――」


「君の予報はお天気お姉さんよりも良く当たるからね。復讐なんてやめて―――気象庁に転職したらどうだい?」


わざとおどけて言って玄蛇が大げさに肩をすくめる。





「無駄よ。もう走り始めたの―――



止まらないわ。




たとえ響輔を殺してでも―――あたしはやり遂げてみせる」





雨が降ったら、あたしの悲しみを洗い流してほしい。


雨の中で泣いたら、きっと誰もあたしが涙を流していることに気付かないだろう―――




雨が降ったら、真夏の日差しに照らされたアスファルトのように似たこの熱い気持ちを冷ましてくれる。


雨が降ったら―――



あたしは煌々と輝く東京の夜景を見下ろしながら、その様子を少し想像してみた。


そしてその冷たい想像の視界で床に転がったバッグを見下ろし、冷え切った視線でテディベアを睨み下ろした。




雨が降ったら―――




響輔のことを忘れられる―――





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