。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
さゆり―――
百合香―――
俺は愛する二人の女を失った。
彼女らの最期をこの手で抱くことすら許されない身分だった。
もう失うのは嫌だった。
美しく儚げな―――この手で簡単に手折ることのできるユリの花―――
そんなか弱い花ではなく、今度はどんな逆境でも強くたくましく生きる花を求めていたのかもしれない―――
だから朝霧を選んだ―――……?
「翔」
キリの手のひらが俺の頬を包む。その手のひらは俺が愛した女たちの誰よりも温かく、命の息吹を強く感じられた。
「どうしたの?あなた泣きそうよ?もしかしてもうマリッジブルー?」
俺はわざと咳ばらいをして、
「そんなことない。単なる貧血だ。心配することない」
なんて言ったが、
「オトコって嘘ばかりね」
キリはちょっと眉を寄せると、微苦笑を浮かべて少しだけ背伸びをすると俺の頭を引き寄せた。
「あなたのそんなところが可愛いのよ。
いらっしゃい。抱きしめてあげる」
ぎゅっとキリに抱きしめられて、俺は
小柄で華奢な彼女が壊れそうなぐらいに―――
強く抱きしめ返した。
まるで存在を確かめるように。
ぎゅっと力を入れて抱きしめると、
俺がキリを抱きしめているはずなのに、彼女に抱きしめられている。そんな風に感じた。
「悲しいときは泣いていいの。そうじゃないと―――疲れちゃうわ」
俺がキリを……朝霧を選んだ理由―――
それは何も言わずとしても、全てを受け止めてくる―――そんなあったかさがあったからかもしれない。
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