。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



“you様 控え室”と書かれた控え室に入り、鏡の前で手をついて再び欠伸。


大きな鏡には眩しいほどの照明が光を放っていて目が痛い。


昨日は夜中までCM撮りだった。某化粧品会社の化粧品のCM。


冬ファンデのCMで、いやって言う程メイク直しされた。まぁ使ってくれることはありがたいんだけどね。


化粧品のCMに出ると女のファンが増えてくれるから。


でも、疲れた…早くメイク落として少しでも仮眠をとりたい。


そんなことを思っているときだった。


キぃ…パタン…


開けっ放しにしていた控え室の扉が閉まる音がして、鏡の中に男の姿が映る。






いつの間に入ったのか―――






壁に背をついて腕を組み、口の端を曲げてあたしを見ていた。


軽く口笛を吹いて


「随分と刺激的なかっこうだ」


楽しそうに笑っている。


地味なブラックスーツ。目にはフレームなしのメガネ。


黒い髪をラフにセットしてあって、あたしは鏡越しで思わずそのすらりと高い長身を睨んだ。







「呆れた。あんたってどこにでも現れるのね、ここ、あたしの控え室よ。


それにこの撮影スタジオはセキュリティが厳重よ。



どうやって入り込んだの。


あたしに何か用?




玄蛇。




しかも今度のその変装なに?」




呆れたように玄蛇を見ると、玄蛇はダテメガネのブリッジををゆっくりと直した。



「お気に召さなかったかい、女王様。この格好だったらスタッフの一人として簡単に入れる。


ほら、偽の通行書も用意したんだ。


表に立ってる警備員は疑いもせずにあっさり通してくれたよ」


玄蛇は楽しそうに笑って首からぶら下げた通行書を軽く掲げる。


あたしは思わず舌打ちした。


ここの警備員も役立たずね。


思い切り不審者が入り込んでるわよ。


「何か用かって聞いてるの。用がないなら近づかないで」


腕を組んで椅子にもたれると、玄蛇はまたも楽しそうに笑った。


「女王様はご機嫌斜めのようだ♪」






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