桜花舞うとき、きみを想う
結婚といっても、ぼくは学生の身だから、きみに何もしてやれなかった。
それに、きみのほうでも、近所の実家からぼくの家に移っただけの生活に、たいした変化もないようだった。
ぼくの家はわりかし細かいことを気にしない質だから、きみも自由に過ごしていて、その点に関して、両親には感謝せねばならない。
ある日のことだった。
ぼくはいつものように、午後6時頃、腹をすかせて大学から帰った。
扉を開けると、玄関に父の靴があった。
普段、父が帰宅するのは決まって7時頃で、こんな時間に帰ることは滅多になかったから、ぼくは驚いた。
耳を澄ませば、居間のほうから楽しげな話し声が聞こえた。
何か良いことでもあったのだろうか。
「ただいま」
と言ってみたが、笑い声に消されて、返事はなかった。
こんなことは、本当に珍しかった。