桜花舞うとき、きみを想う


一式陸攻の全長は、およそ20メートルだから、その腹にくっつく大きめの紙飛行機といったら、

「それじゃ、5、6メートルになってしまうよ。そんな小さな機体じゃ、装備が付けられないだろう」

ぼくは半笑いで言ったが、山里くんは真面目な顔で、そうだ、と頷いた。

「そんな、いくら特攻だからって、何の装備もないんじゃ爆弾と同じじゃないか」

「何を言ってるんだ。特攻は爆弾だよ。人間爆弾さ」

「そうじゃなくて、それなら人が乗る必要がないってことだ。一式陸攻から切り落とされるだけなら、爆弾を着けておけばいいじゃないか」

「足の間にレバーとボタンがあるんだ。レバーで方向を定めて、そこと決めたらボタンを押す。そうすると、噴射が始まって敵艦にどかん!という仕組みだ。人が乗ることによって、ただの爆弾を落とすよりも成功率は高まるというのが、上のお考えなのさ」

山里くんの口調は、皮肉めいていた。

「桜花の乗員には、表向きは熟練搭乗員が選抜されるとされているようだが、見てわかるように、もうこの基地には熟練搭乗員なんていやしない。戦える兵がほとんど残っていないんだ」

山里くんの言うことは事実で、ぼくも食事の時間になり食堂へ行くたびに、日々増える空席に、それを実感する。

「だからきみの飛行訓練時間の有無なんて、誰にも考慮してもらえないぞ。ここにいるというだけで、否応無しに特攻の候補になっているんだから。実際これまでにも、ほとんど戦闘実績がないパイロットが桜花に乗ったのを、ぼくは、この目で……」

そのパイロットと、山里くんは懇意だったのだろうか。

途切れた言葉の先を想像すると、彼に掛けるにふさわしい言葉は、どこにも見当たらないのだった。



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