桜花舞うとき、きみを想う
「それよりアヤ子、頼んでおいた鉛筆、買って来てくれたかい」
ぼくが話を逸らすと、きみはすぐに真新しい鉛筆を差し出した。
「はい、本当に3本でよろしいの?」
「ああ、また要りようになったら頼むよ」
鉛筆を削って机に向かい、ボロボロになったノートを開くと、
「あまり無理なさらないでね」
と、きみが後ろから、そっとぼくの肩に触れた。
「ああ。だけど兄さんが帰って来たときに、ぼくが一から教えてやれるくらい勉強しておかなくちゃ」
ぼくは冗談めかして言った。
「ふふ、あなたが幸一さんの先輩になるなんて不思議ね」
「もっとも、兄さんが復員してから商社で働くかわからないけどね」
「兵隊さんに取られるまで、ずっとそのためにお勉強なさっていたもの。きっとやるわよ」
「そうだね、そうなるといいな。早く一緒に働きたい」